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大阪家庭裁判所 昭和54年(少)32289号 決定 1979年9月18日

少年 M・D(昭三六・九・一二生)

主文

本件戻し収容申請を却下する道路交通法違反保護事件(昭和五四年少第三二二八九号)につき、少年を保護処分に付さない。

理由

第1  (1)本件申請の理由

別紙として添付した近畿地方更生保護委員会作成の昭和五四年二月一六日付戻し収容申請書中の申請の理由記載のとおりである。

(2)非行事実(編略)

第2  当裁判所の判断

1  仮退院後の経過はほぼ「申請の理由」のとおりであつて、少年が犯罪者予防更生法三四条二項一号前・後段、二号、三号、四号に定める一般遵守事項及び同法三一条三項により近畿地方更生保護委員会が定めた特別遵守事項を遵守しなかつた事実は一応認めることができる。

2  そこで、少年を少年院に戻して収容する必要性及びその効果を期待することができるかどうかについて、本件戻し収容申請書添付の記録及び家庭裁判所調査官作成の昭和五四年九月一七日付意見書、試験観察経過報告書、試験観察(委託)成績報告書の二月分ないし八月分、大阪少年鑑別所の鑑別結果通知書、大阪保護観察所長作成の保護観察状況等報告書等により総合検討すれば、少年は昭和五三年一二月二一日中等少年院(一般短期処遇課程)を仮退院後、前記のとおりの遵守事項違反、非行はあつたものの、昭和五四年二月二六日試験観察に付せられ、○○○に補導委託されてから後は、多少の逸脱行動はあつたものの、著しい生活の乱れや再非行をなしたと認めるに足る証拠はなく、生活態度も一応改善の方向にあると認められること等から、少年を少年院に戻し収容して訓練を施すよりも、このまま社会内において保護観察所、保護司の専門的指導の下に、勤労態度その他日常生活態度を更に改善させ、一層社会適応性を培つていくことが、少年の健全育成のためにより相当であると考えられるので、現状ではもはや少年を少年院に戻し収容する必要はなくなつたものと認められる。

よつて本件申請は理由がないのでこれを却下することとし、犯罪者予防更生法四三条一項、少年院法一一条三項、少年審判規則五五条により主文第一項のとおり決定する。

3  次に道路交通法違反の事実(昭和五四年少第三二二八九号)は同法一一八条一項一号、六四条に該当するが、前記戻し収容却下と同旨の理由により、現状において、少年を更に保護処分に付する必要はない(別件保護中)と認められるので、少年法二三条二項により主文第二項のとおり決定する。

(裁判官 神沢昌克)

別紙 申請の理由

本人は、昭和五三年一二月二一日播磨少年院を仮退院し現在大阪保護観察所の保護観察下にあるものであるが、同保護観察所の指導監督に服さず仮退院に際して誓約した遵守事項を了知していたにもかかわらずこれに違背して

(1) 昭和五三年一二月二二日大阪市○○○区○○所在の○○○○K・Kに就職したが、同日及び二四日、二六日午前中就労したのみで、同月二六日以降家出、無断外泊を繰り返して就労せず

(一般遵守事項第一号、及び特別遵守事項第四号第五号違反)

(2) 昭和五四年一月一六日呼出状により同保護観察所に呼出され注意、指導を受けて

1 仕事にはやくついてまじめに行く。

2 家にはぜつたいにきめられた時間に帰る。

3 暴走族のみんなとつきあつたりしない。

を再度誓約したにもかかわらず、同日午後八時ごろ外出して同日午後一一時過ぎごろ大阪市○○○区○○○○△△△病院付近路上で友人三人と談話中警察官の補導を受けたにもかかわらずそのまま友人方を転々として同月二七日夜まで帰宅せず

(一般遵守事項第一号及び特別遵守事項第四号第五号違反)

(3) 昭和五四年一月二二日午後九時ごろ大阪市○○○区○△の路上において単車を無免許運転して警察官の補導を受け

(一般遵守事項第二号及び特別遵守事項第六号違反)

(4) 昭和五四年一月二七日両親の制止を振り切つて「このままでは少年院に入れられるので逃げる」と言い残して家を出て同年二月八日引致状により引致されるまでの間家出していた

(一般遵守事項第一号及び特別遵守事項第四号違反)ものである。

以上の各行為は大阪保護観察所長からの提出の戻し収容申出書並びに添付書類及び同関係記録書類によつて明白であり、本件保護観察中の経過についてみるに、本人は仮退院の翌日から無断外泊家出を繰り返してほとんど家庭に寄りつかず、著しく勤労意欲を欠き徒遊を続けていたもので少年院に送致される以前と同様の不安定な生活状態に戻つていたと認められる。

このように本人には更生意欲が認められず保護観察官や担当保護司の指導にも全く従わない現状であり、もはや保護観察による処遇によつては本人の改善更生は期待できないものと考えられこのままの状態では更に家出、不良交友、非行へと進行していく危険性は極めて大であると考えざるを得ない。したがつてこの際本人を少年院に戻して収容し矯正教育を施すことにより本人を保護し、社会を防衛することが相当であると考える。

よつて当委員会は審理の結果、犯罪者予防更生法第四三条第一項の規定により本人を少年院に戻して収容すべき旨の決定の申請をする。

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